阿仏房尼御前御返事

令和四年十一月度 御報恩御講拝読御書

阿仏房尼御前御返事あぶつぼうあまごぜんごへんじ 御書九〇六ページ一三行目~一六行目
(建治元年九月三日 五十四歳)

たび大願だいがんて、後生ごしょうねがはせたまへ。すこしも謗法ほうぼう不信ふしんとがそうらはゞ、無間大城むけんだいじょううたがひなかるべし。たとへば海上かいじょうふねにのるに、ふねをろそかにあらざれども、あかりぬれば、かなら船中せんちゅう人々ひとびと一時いちじするなり。なはて堅固けんごなれども、ありあなあればかならついたたへたるみずたまらざるがごとし。謗法ほうぼう不信ふしんのあかをとり、信心しんじんのなはてをかたむべきなり。あさつみならばわれよりゆるして功徳くどくさすべし。おもきあやまちならば信心しんじんをはげまして消滅しょうめつさすべし。

通釈

この度、大願を立て、後生(の成仏)を願いなさい。少しでも謗法や不信の失があるならば、無間大城(に堕ちること)は疑いないであろう。たとえば海上で船に乗る時、船は粗末でなくとも、水が入ってしまえば(船が沈み)、必ず船中の人々が一度に死ぬことになる。また、畷が堅固であっても、蟻の穴があれば、必ず最後は湛えた水が溜まらないのと同様である。謗法不信の水を取り除き、信心の畷を固めるべきである。浅い罪ならばこちらから許して功徳を得させるべきである。重い過ちならば信心を励まして(その重罪を)消滅させるべきである。

主な語句の解説

  • 大願

仏・菩薩が衆生を救済していこうとする誓願のこと。また、自身の成仏と衆生救済を願うこと。『上野殿御返事』に「願はくは我が弟子等、大願ををこせ」(御書一四二八)とある。

  • 後生

死後の世界や来世のこと。また、来世に生を受けること。

  • 無間大城

無間地獄のこと。無間とは、休む間もなく苦悩を受け続けることをいい、大城とは、七重の鉄の城と七層の鉄の網に囲まれて地獄の罪人が脱出できない堅固な城のこと。

  • をろそか

粗悪、粗略、粗末の意。

  • あか(水)

水のこと。贈り物を意味する梵語に由来し、「閼(阿)伽」と音写される。後に、仏に供える功徳水や供物の器を指すようになった。転じて、船底にたまる水・船湯も「あか」と称するようになったという。

  • なはて(畷)

水田の畔(あぜ)のこと。水をせき止め、ためておく役割をする。