妙一尼御前御返事

令和四年八月度 御報恩御講拝読御書

妙一尼御前御返事みょういちあまごぜんごへんじ 御書一四六七ページ二行目~五行目
(弘安三年五月十八日 五十四歳)

それ信心しんじんもうすはべつにはこれなくそうろうつまをとこをおしむがごとく、をとこのつまいのちをすつるがごとく、おやをすてざるがごとく、ははにはなれざるがごとくに、法華経ほけきょう釈迦しゃか多宝たほう十方じっぽう諸仏菩薩しょぶつぼさつ諸天善神しょてんぜんじんとうしんたてまつりて、南無妙法蓮華経ととなへたてまつるを信心しんじんとはもうそうろうなり。しかのみならず「正直捨方便しょうじきしゃほうべん不受余経一偈ふじゅよきょういちげ」の経文きょうもんを、おんなかゞみをすてざるがごとく、おとこかたなをさすがごとく、すこしもつるこころなくあんたまふべくそうろう

通釈

そもそも信心というのは特別なことではない。妻が夫をいとおしく思うように、夫が妻のために命を捨てるように、親が子供を捨てないように、子供が母親から離れないように、法華経・釈迦仏・多宝仏・十方の諸仏・菩薩・諸天善神等を信じ奉り、南無妙法蓮華経と唱え奉ることを信心というのである。そればかりでなく、「正直に方便の教えを捨てる」「余経の一偈をも受けない」と説かれる経文を、あたかも女性が鏡を大切にして身から離さないように、男性が刀を身に帯しているように、少しも捨てる心を持たずに信心を行じていきなさい。

主な語句の解説

  • 法華経~諸天善神等

御法主日如上人猊下は「十界互具の御本尊」(信行要文七―二四)と教示されている。

  • 多宝

法華経の虚空会に出現して、法華経が真実であることを証明した仏。釈尊は宝塔中に多宝仏と並座して説法した。

  • 十方の諸仏

東西南北の四方と、東北・東南・西北・西南の四維に、上下の二方を合わせた全ての世界にいる、無数の仏のこと。

  • 正直捨方便

法華経方便品第二(法華経一二四)の文。釈尊が法華経以前の四十余年間に説いてきた諸経は方便の教えであり、それら全てを捨てて無上の法華経を説くとの意。

  • 不受余経一偈

法華経譬喩品第三(同一八三)の文。余経とは法華経以外の諸経のことで、真実の法華経のみを信じて、他経の一偈一句をも受持してはならないとの意。