経王殿御返事

令和六年一月度 御報恩御講拝読御書

経王殿御返事きょうおうどのごへんじ 御書六八五ページ一四行目~六八六ページ一行目
(文永十年八月十五日 五十二歳)

日蓮がたましひすみにそめながしてかきてそうろうぞ、しんじさせたまへ。ほとけ御意みこころ法華経ほけきょうなり。日蓮がたましひは南無妙法蓮華経にすぎたるはなし。妙楽みょうらくはく「顕本遠寿けんぽんおんじゅもっいのちす」としゃくたまふ。経王御前きょうおうごぜんにはわざはひもてんじてさいわひとなるべし。あひかまへて御信心ごしんじんだし御本尊ごほんぞん祈念きねんせしめたまへ。何事なにごと成就じょうじゅせざるべき。「充満其願じゅうまんごがん如清涼池にょしょうりょうち」「現世安穏げんぜあんのん後生善処ごしょうぜんしょうたがひなからん。

通釈

日蓮が魂を墨に染め流して認めた御本尊である。よくよく信じなさい。仏(釈尊)の本意は法華経である。日蓮の魂は南無妙法蓮華経に過ぎるものではない。妙楽大師は「(法華経は)顕本遠寿を明かすことを命とする」と釈している。経王御前には、災いも転じて幸いとなるであろう。信心を奮い起こしてこの御本尊に祈念しなさい。何事も必ず成就するのである。「充満其願、如清涼池」「現世安穏、後生善処」との経文は疑いないものである。

主な語句の解説

  • 妙楽

中国天台宗の第六祖。法華三大部の注釈書を著し、天台大師の法華第一の教えを宣揚した。

  • 顕本遠寿

『法華文句記』の文(法華文句記会本下四八〇)。法華経如来寿量品第十六で、釈尊が久遠五百塵点劫という長遠な仏寿を顕したことをいう。

  • 充満其願、如清涼池

法華経薬王菩薩本事品第二十三(法華経五三五)の文。「其の願を充満せしめたもう。清涼の池の(中略)如く」と訓ずる。法華経を持つ者の願いが叶うのは、あたかも清涼の池が人々の渇きを潤すようなものであるとの意。

  • 現世安穏、後生善処

法華経薬草喩品第五(法華経二一七)の文。「現世安穏にして後に善処に生じ」と訓ずる。現世では安穏なる境界となり、来世にも必ず善き処に生まれて妙法を受持することができるとの意。